今日のラノベ!

桜色のレプリカ 1

桜色のレプリカ 2

桜色のレプリカ 1&2

著者:
翅田大介

イラスト:
町村こもり

レーベル:
HJ文庫


【あらすじ】

(1巻)
六方カザネはこの「学校」の文学教師である。ある日、理事長の二階堂イツキに呼び出され奇妙な依頼を受ける。積極的にカザネに迫って来る自称・淫乱ピンクの三十刈アイラ、マンガやアニメ的なお約束好きの四十田ユキ、委員長タイプの五十嵐ヒビキ、無口で小説好きの百合原ハルカ、個性的な女生徒たちに囲まれるカザネが受けた依頼、その驚くべき内容とは―?

(2巻)
理事長の理不尽な依頼に嫌気が差しつつあったカザネだが、校内に1本だけあるという桜の木の下でついに「本当のヒロイン」を見つける。嫌々ながらの捜索だったが、真ヒロインの大胆な告白を受け、ハートのど真ん中を射抜かれてしまうカザネ。しかし他のヒロインたちも黙っちゃいない。ヒロイン捜索型学園ラブコメは怒涛の展開へ―。




感想:★★★★★

話題になってから間が空き、さらに読んでからも時間が経ってますがやっと書きます、『桜色のレプリカ』の感想。


綺麗に3回ひっくり返りましたね……。




1章は、わざとらしいくらいラブコメしてるラブコメ
生徒からは良く慕われ、同僚との淡い恋模様があり、いくつものイベントを重ね……。
「このままいったら食傷気味になるぞー?」と不要な心配をしていました……。
今後の展開に衝撃を受けさせるための明確で嫌らしいミスリードでもあり、レプリノイド的な意味では読んで字のごとく「わざと」なラブコメだったわけですねー。
しかも生徒たちだけでなく、本当に全部。
結末を知ってから読み返してみると、確かにメグミの反応もそれっぽいです。
つまり1巻ラストの「ひっくり返し」のヒントは最初からあったのか…。


そして2章で最初の「ひっくり返し」です。
「ちょっと何言ってるか分からない」状態に陥って、この時点で一度本を閉じましたからね?
他のラノベだったらクライマックスレベルの体力の持っていかれ方でした。
ラブコメだと思って気持ちを整えていたのに、まさかの世紀末ミステリものですよ…。
びっくりするほどアポカリプス!


そしてカザネは、レプリノイドたちの中に混ざった1人の人間を探す任務を与えられるのですが…。
どうやって?何を基準に?」というカザネの疑問が、この作品の肝であり考えるのが面白い部分でした。
そもそもレプリノイドに人間らしさを教える仕事が存在しているのだから、そこに何か明確な差があってしかるべき。
作中では文学を通して人間らしい考え方というものをカザネ自身の解釈を交えて講じていますが、仮にロボットやレプリノイドのようなインプット可能な無機物がそれを習得したらそれらが人間になるかと言ったらそういうわけでは無いというのは明白。
それは他の定義に関しても同じで、脳の機能や考え方のみならず、「心」という現代技術では観測不能な部分をもとにして定義したとしても、定義・観測できてしまった時点でそれを再現する機能を付加することは……容易ではないにしても不可能とは言えないのではないでしょうか。
例えば最近ですと、相手の感情を読み取りながら会話をしてくれるロボットが開発中だったはずです。老人ホームとかでの活用を目標にしたものでしたっけ?
感情そのものを読み取るのではなく、相手の体温や脈拍、視線や表情筋の僅かな動きから判断するという仕組みなら既に実用化の一歩手前まで来ているわけです。今の科学技術ですら。

そして、それより先の技術を持っていると推測される今作で、レプリノイドと人間の差を思考判断のみを基準に選別するなんて無理じゃ!!



とかなんとか考えている間に1巻クライマックス、2回目の「ひっくり返し」です。
ブルータス、お前もか。
否、カザネ、お前もか。
百合原にしてみたら、お前もか、であり、お前は違う、であり。

この「ひっくり返し」によって、全ての登場人物の名前に数字が入っていることに納得しました。
ロットナンバーのような意味なんでしょうね。
ただの番号だと「人造のもの」だから、人間らしくなるように苗字にしたと。
もしかしたらレプリノイドの補充ができていた頃は、一番から順番に必要人数分苗字が割り振られていて、欠番が出たら苗字を引き継いで新たなレプリノイドがやってくるみたいなことがあったのかもしれませんね。
三代目三十刈シスターズの誕生である。
……わいせつ物がふえた




2巻はなんて言うんでしょうか…。
認識のすり合わせ?
自分自身が人間だと思い込んでいたレプリノイドだという現実を戸惑いながら受け入れていく過程で、自分がそうなら周りもそう、そして周りもそうなら……、と認識をすり合わせていくのが2巻の中盤まで。
2章以降に把握してきた世界観がまたしても壊されていく感覚は、石を積んでは倒される賽の河原を思い出しました。
なのでこのあたり読んでる時は、なんというか精神的サンドバッグ状態といいますか。「もう好きにしてくれ…」って感じでしたね。
密かにメグミのキャラが好きだったので、彼女が壊れかけた時には乾いた笑いが漏れました…。
……今となっては一番好きなキャラは豹変後の百合原なので、偶然にもカザネと同じ道を辿っていることになるわけですが。百合バンザイ!毒バンザイ!アハハハh





そして最後の「ひっくり返し」、やっぱりラブコメだった編。
人間とレプリノイドの違いにまつわる物語が、奇しくも三十刈の得意分野である「愛」により決着をつけているというのが最高に刺さりました。
愛に狂った女と、愛に調子を狂わされた女のキャットファイトは素晴らしかったです。キャットはキャットでも獰猛なライオン同士ですが。

与えられた役割に満足せず、自分で考えることが「本物」の証。
人間とレプリノイドに境界線を引くのではなく、本物か紛い物かという言い方で境界線を引くというのが今作の着地点になるんでしょうか。
分かるようで分からない、分からないようでいて分かる…。

例えば工場なんかの労働者を揶揄する言葉として「歯車」というワードが使われることがありますが、それはまさしく一定の生産基準をクリアすることだけを課せられ同じ行動を繰り返すさまが人間らしくない、機械のようだという意味ですよね。
ちょうど今製造業で働いているので、この工場という1つの機械に組み込まれているかのような気分はよく分かります。
でも、その一方で工場で働く人々は「左に置いてある部品を右に置くと、動きが短縮されて作業効率があがる」という考えを持つことができます。それは(少なくとも現代科学では)機械にできないことです。
人件費と研究開発費を天秤にかけて、今人間がやっている作業を機械にやらせるという判断をくだすことは機械にも可能ですが、それは置いておきましょう。
ともあれこの、工場の歯車でありながら機械ではない、という状態が今作でいう「本物か紛い物か」という線引きなのかなと思っています。






今作の「桜」から感じ取ったイメージは…。
「不変」、でしょうか。

トータル3回大きくひっくり返されるなかで色々な表情を見せてきた今作ですが、人間とは何かを考えさせ続けることからは大きく外れませんでした。愛の形うんぬんの話も含めて。
それがまるで、1年のなかで花や葉、枝で季節ごとに色々な表情を見せつつも、毎年必ず花を咲かせ、葉を茂らせ、寒さに凍える桜の花を見ているかのようでした。
すごくまともなことを言っているので照れる…。
感想書き始めた最初のほうは、「卵焼きって何回もひっくり返すけど結局卵だよね」って書こうと思っていたんですが、あまりにも桜に触れてこない感想だったので、ちゃんと桜でまとめました。偉い。


「不変」ではありますが、それは成長しないということではないでしょう。
成長しつつも変わらない。
そうしていくことで紛い物ではなく本物だという自覚をゆっくり深めていくことを、生きるというのかもしれませんね。





照れり(/ω\*)









以上!


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